耐震等級3の「こだわり」について

加藤淳一級建築士事務所に設計依頼のある物件は、全棟で許容応力度計算を行い、標準で耐震等級3を取得しています。

インナーガレージにより、少し不安定にみえますが、許容応力度計算により、耐震等級3の住まいです。
東区の家

耐震等級に拘っていますが、それには理由があります。


それは、建築の仕事についてから起こった大きな二つの地震です。


私は大学を卒業してから、福島で働いていました。
東北大震災が起こる1年前、2010年から新潟で働くことになったのですが、妻の仕事の都合で、妻と子どもたちはまだ福島で生活していました。
私は単身赴任で新潟に。休日は福島へ。新潟と福島を行ったり来たりする生活を過ごしていました。


そんな生活を送るなか、2011年3月11日、東北大震災が起きました。

住まいは会津若松にあったので、建物に大きな被害はなかったのですが、原発のこともあり、地震の怖さを身を持って体験しました。


そして、私が独立して2年目の2016年4月の熊本地震。

熊本県益城町を中心に大きな被害がありました。倒壊のほとんどが、旧耐震基準(1981年5月以前)の建物です。

↓下図の一番左の棒グラフが旧耐震基準↓

出展:「熊本地震における建築物被害の原因 分析を行う委員会」報告書から抜粋 国土交通省 住宅局

旧耐震基準の木造建築物の45.7%が「倒壊」と「大破」です。驚くことに、半数近くの建物が大きな被害にあっています。

大きな地震があるたびに建築基準法は見直されています。1978年に発生した宮城県沖地震(M7.4)をきっかけに、新耐震基準が登場し、現在も使用されています。熊本地震では新耐震基準(1981年6月以降)により被害が減って、「倒壊」と「大破」は、15%(1196棟中、180棟)でした。地震が起こるたびに改善され、旧耐震基準の建物よりも、被害数が少ないとはいえ、決して良い数字ではありません。


それは何故なのか?


建築基準法では、「建物は倒壊しない程度にしておけば、その間に逃げて、人命が守られれば良いから、必要最小限の強度で良い」という考えが基本にあるからだからだと思います。
熊本地震の特色は、大きな地震が2回続けて起きたことです。一つ目の大きな地震により、倒壊しないまでも被害に遭った建物が、2回目の大きな地震により、倒壊してしまいました。
壁の中の見えないところが破損していたり、耐震金物が外れていたりしていたようです。
そうした目には見えない破損によって「大丈夫だろう」と思って帰った人が、不幸なことに被害に合われました。


新耐震基準において、建物に求められていたことは、

  • 震度5強程度の地震でほとんど損傷しないこと。
  • 震度6強から7の地震であっても倒壊・崩壊しないこと。

となっています。
つまり、震度6強の地震が来たとき、「倒壊・崩壊さえしなければ、いくらでも壊れても良い」ということになります。

1回目の地震で、建築基準法の新耐震基準の通り、人命を守りました。しかし、逃げた人が壊れている建物に戻り、2回目の地震が起きてしまいました。
建物は建築基準法、新耐震基準をクリアしているにも関わらず、被害に合ってしまったのです。

2000年に住宅性能表示制度が創設されました。

そこで、耐震性の等級が次のように定められました。

  • 等級1が、建築基準法の強度
  • 等級2が、建築基準法の1.25倍の強度
  • 等級3が、建築基準法の1.5倍の強度 ※等級3は、消防署や警察署など防災の拠点となる建物の耐震基準。

下の図は、耐震等級1と耐震等級3の建物の比較です。

←等級1:建築基準法のレベル | 等級3:建築基準法の1.5倍の強度→
出展:「熊本地震における建築物被害の原因 分析を行う委員会」報告書から抜粋 国土交通省 住宅局

耐震等級1(建築基準法のレベル)の住宅は、「大破」と「倒壊」を合わせて6.3%(19棟)です。
耐震等級3(建築基準法の1.5倍)の住宅は、「大破」と「倒壊」の建物はありませんでした。

東北大震災によって、「勘」や「経験」に頼らずに、耐震性について、しっかりと取り組んでいこうと思っていました。(建築業界に入って、「勘」や「経験」に頼った人に、とても多く会ってきました。「勘」や「経験」を馬鹿にするつもりはありませんが、計算根拠のない、個人的な見解を根拠にしての家づくりはいけません)

加藤淳一級建築士事務所を設立してから、許容応力度計算の根拠をもって裏付けされた設計を行っています。

事務所設立から一年が過ぎ、熊本地震が起きました。地震が起きたことはとても不幸なことですが、耐震等級3の建物の安心感が証明されたように思います。


耐震性を追求すると、真四角の箱のような建物になってしまいがちですが、加藤淳一級建築士事務所では、耐震等級3を維持しつつ、建築としての可能性も追及しています。

インナーガレージにより、浮いているような東区の家も耐震等級3、

中庭のあるコの字型プランの真砂の家も耐震等級3、

スキップフロア式の荻曽根の家も耐震等級3です。

加藤淳一級建築士事務所では、耐震性や省エネ性能を第一に考えながらも、建築としての可能性を追求しています。