新潟県の加藤淳一級建築士事務所

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記事掲載 2016/12/18

特集:どこか懐かしい気持ちにさせる、そよ風が吹き抜ける家。


庭と合わせて設計された、気持ちのいい住まい

 
白いガルバリウムの外壁に包まれた新潟市江南区にあるU邸。シンプルながらも、外壁に設けられた木のルーバーや、家の前に植えられたイロハモミジやアナベルが建物の印象を柔らかくしており、優しい表情を感じさせる。
 

 
北側ファサード。風にそよぐイロハモミジがアプローチに影を落とす。
 
建物の前に植えられたアナベルはご近所の方の評判も良いそう。
 
 木のポストは設計事務所のオリジナル。
 

少し大きめの木製の玄関扉を開いて中に入ると、景色は一変。ご主人の趣味である自転車が余裕で置ける広めの玄関土間、そして正面の掃き出し窓の向こうには芝生の庭が広がる。
 
天井高は通常よりも低めの2200mm程度。天井が低い分、目線は外へと向かうため窮屈さを感じさせない。土間の隣には6畳の和室が隣接しているが、こちらは近くに住むお母さまが将来一緒に住めるようにと設えた部屋だ。2枚の引き戸を開放すると土間と一体の空間になり、広々と使うことができる。もちろん、この和室からも庭が望める。
 
また、天井高を抑えることにより、構造的な安定感を高められていて、耐震等級が最高等級の3相当となっているのもこの家の特徴だ。
 

自転車を出し入れしやすいように、玄関ドアは通常よりも大きめにしている。
土間と和室が一体になり、伝統的な日本家屋のような雰囲気も感じさせる。
 
和室より南側の庭を望む。廊下の奥にはリビングが見える。
 

土地は約60坪、延床面積は約33坪と、新潟市郊外としては土地も家も特別に広いわけではないが、和室も玄関もリビングも目線が庭へと抜けるように設計がされていて、その開放感が気持ちいい。
 

2階の子ども部屋の地窓から見下ろすリビング。勾配天井を利用して、
1階と2階が小窓で繋がるように設計した。

 

自然素材の家づくりを得意とする建築士

 
ご夫婦と息子のアキヒトくんの3人で暮らすU邸の設計者は、2015年に開業した加藤淳一級建築士事務所の加藤淳氏。自然素材を使った家づくりの実績を多く持つ加藤氏は、30代の頃に青年海外協力隊でモンゴルの大学の建築学科の講師をしながら、ゲルやセルフビルド住宅の調査を行うという、珍しい経歴も持っている。
 

加藤淳一級建築士事務所の加藤淳氏。

 
また、学生時代はモダニズムの巨匠ル・コルビュジエの研究会に所属するなど、建築に対して真剣に、そして楽しみながら携わってきた。そんな加藤氏は、延床面積30坪前後の住宅においても、細やかな設計の工夫を盛り込みながら、必要以上にコストを掛けることなく、居心地のいい空間をつくり出す。
 
ご夫婦が加藤氏に設計を依頼したのは、実は奥様と加藤氏がかつての同僚で、その設計のセンスを知っていたから。そんな信頼関係があったから、基本設計が固まるのもとてもスムーズだったという。
 
 

心地よさがあふれる設計の工夫

 
ご主人の趣味は5年ほど前に始めたという自転車で、ロードバイクとマウンテンバイクを1台ずつ所有している。平日が休みのご主人は、お世話になっている自転車店の店長と一緒に、よく50~60km程の距離をロードバイクで走りに行くという。
「休みの日の午前中に秋葉区の石油の里あたりまで走りに行って、午後は家でゆっくり過ごすことが多いですね」(ご主人)。また、長野方面のスキー場に出掛けて、マウンテンバイクでダウンヒルコースを走ったりもするそう。そんな自転車好きのご主人が広い玄関土間を希望したのは、自転車を置くだけでなく、冬場のトレーニングスペースとしても使えるようにしたいという意図からだが、その広さが暮らしにゆとりももたらしている。
 

土間で自転車のメンテナンスをするご主人と、息子のアキヒトくん。

 
そんな玄関から靴を脱いでホールに上がり右へ行くと、リビングへと繋がる。キッチンは天井高を抑えている一方で、リビング側は勾配天井にしているため、そのギャップにより空間の広がりを感じさせる設計となっている。隣家が立つ南側を壁にしているが、午前も午後も、庭に面した東側と、西側に切ったハイサイドライトからたっぷりと光が注ぐ。
 

玄関前の廊下から庭越しにリビングが眺められる。
U邸は庭も一体に見えるため、とても広く感じられる。
縁側から見るリビング。約10畳分の広さにソファやダイニング
テーブルが置かれているが、勾配天井や引き込み式の掃き出し窓により、
面積以上の開放的が得られている。

 
朝は爽やかな朝日で満たされ、夕方になるとハイサイドライトから差し込む印象的な光が和紙の壁を照らす。また、ハイサイドライトの一部は開閉できるため、家の反対側に位置する和室の地窓から入った風がよく通る。外にいるよりもいい風が室内を抜けていくので、夏でもエアコンを使うことがあまりないそうだ。
 

壁や天井の仕上げは和紙なので、光が柔らかく反射する。
写真左上の小窓は2階の子ども部屋に繋がり、空間をより広く感じさせる。

 
リビングのソファに腰掛けると、目線は目の前の庭へと伸びる。「ここでぼーっとして過ごすのが気持ちいいですね」とご主人。奥様は「家の中のどの場所も気に入っていますが、キッチンに立った時にリビングも庭も見えるのが気持ちいいです」と話す。
 
特別に高級な素材や設備を使っているわけではないが、自然と「気持ちいい」という言葉が出てくる。それは、住まいの心地よさは、適切な素材選びや設計の工夫によって実現できることを感じさせる。
 

幅2.5mもの開口ができるため、とても開放的。
風の抜けもいい快適なリビング。

 

キッチンから見るリビング全景。
夕方になると西のハイサイドライトから光が差し込む。

 
庭には、ヒメシャラやブルーベリー、エゴノキ、秋色アジサイなどが植えられている。庭は息子のアキヒトくんの遊び場で、バッタやカマキリ、カエルなどを庭で捕まえてくるそうだ。建物でL字に囲んだプライベートな庭は小さな生態系をつくり出し、家にいながら子どもが植物や昆虫と触れ合える場所になっている。
 
 

素材感のある家具や雑貨を長く使う

 
U邸の心地よい雰囲気は家族の暮らし方によるものも大きい。7年間住宅会社で設計や不動産に関わっていた奥様がインテリアを整えている。ご主人は「妻のセンスが良いので任せてます」と微笑む。
 
特筆すべきは家の中の随所に見られる大小さまざまな籠だ。古いものでは、15年も前に買ったという籠も大切に使っている。また、奥様は20年前に初任給で買ったというビンテージのキャビネットも大事に使っており、年月が経っても、陳腐化することなく味わいを深めていく家具や道具を20代の頃から自然に選んできた。
 

奥様が15年前に買ったという井草の籠バッグ。

 

2階の廊下は南側からの光がたっぷり入る物干しスペース。
右の小窓の先はウォークインクローゼットで、通風のために窓を設けている。

 

寝室には、奥様が20年も前に買ったというビンテージのキャビネットが。
右奥に見えるのはご主人の書斎スペース。

 
アキヒトくんのおもちゃや、洗面室に置かれる洗剤なども籠に入れることで、プラスチックのもの特有の無機質さを和らげている。キッチンの飾り棚に置かれた籠にはビスケットが入っていたりと、あらゆる場所で小物を入れる器として使い分けている。
 

洗面脱衣室にもさまざまな種類の籠が並ぶ。

 
また、キッチンの壁に付けられたカウンターの下には、以前の賃貸マンションで使っていた食器棚が入っている。この食器棚のサイズに合わせてカウンターを造作しているため、カウンターと食器棚が一体のように見える。一般的に、新築の際に家具を買い替えるケースが少なくないが、U邸では多くの家具をそのまま使っている。
 

キッチンにはあえて収納力のある吊り戸棚は付けずに、
すっきりとした飾り棚にした。こちらにも籠やざるなどの
自然素材の道具が並ぶ。
 

それは、いいものを長く大切に使い続けようという感覚が暮らしに反映された結果である。味わいのある暮らしの道具たちが配された住まいは、新築でありながらも、何年も住んでいるかのような、どこか懐かしい雰囲気を醸し出している。
 

キッチンの横のパントリー。ご主人のお母さまから譲り受けたせいろや、
わっぱの弁当箱などがきれいに並んでいる。

 

新築祝いにもらったという木目がきれいなちゃぶ台は和室によく合う。

 

造作の洗面台がある洗面脱衣室。掃き出し窓を開けると、
ルーバーで目隠しされた物干しスペースが。
西日で洗濯物が乾きやすい。

 
オークの無垢の床の経年変化や、この春に植えられたばかりの木々の成長もこれからの楽しみだ。新築時から優しく穏やかな住まいだが、10年、20年経つ頃には、さらに味わいを増していそうだ。心地よい暮らしを実現するのに、高級なものを求める必要はない。適切な素材選びと設計の工夫、そして暮らし方が何よりも大切であることを、Uさんの住まいと暮らしが教えてくれる。